心の温かいほうへ

大好きな先輩のこと
大学院の先輩に、大好きで大好きで、ずっとお手本にして生きていきたい女性がいる。大学院では同じゼミで環境経済学を専攻していたのだけれど、勉強でもとてもお世話になったし、それ以外でも大いに影響を受けたと思う。先輩が好きだといったものは本でも映画でも全部好きだった。

今でもよく覚えているのは、趣味の近いみんなで集まって話したときに、「もし明日が世界で最後の日だとしたら何をする?」という話題で、先輩は「朝起きて、洗面台の鏡の前で髪の毛をキュッとしばり、冷たい水で顔を洗い、歯を磨いて・・・」と日常のあたりまえのしぐさを一つ一つ丁寧になぞったことだった。あぁ日常って何て美しいのだろう、と先輩の話すのを聞きながらはっきりとイメージが浮かび、心が震えた。

先輩のおうちに泊まらせていただくこともあり、朝方まで話込んで、さて寝ようかと歯を磨いているときにテレビに屋久島の森からしゅわしゅわと水蒸気が立ち上っている映像が映り、2人歯ブラシをくわえながら感動して「人間なんてちっぽけです、ごめんなさいごめんなさい」とか言って泣いたような覚えもある。(笑)

ある時、東京大気汚染訴訟のシンポジウムにかなり遅れて行った時、先に来ていた先輩が被害者の方の話を聞きながら号泣していた。私はお話を聞けなかったのだけれど、先輩の姿を見て、そんな風に他の人の痛みに自らを重ね合わせることができるなんて、本当に素晴らしい、と思ったのを良く覚えている。

先輩が弁護士になって

その先輩が博士課程に進学しながらも、「環境訴訟に強い弁護士になる」といってロースクールに通いだし、私は社会に出てしまって暫くお会いしていなかったのだけれど、司法試験に合格し弁護士として事務所に所属した時に送ってくださった資料に載せられた先輩の決意あふれる文章を読んで、心から感動した。

私が専攻していた環境経済学は、真に豊かな社会とは何であるかを問う学問でした。それは、社会的に弱い立場の人や、声をあげることのできない自然が、しいたげられることなく、多様な「生(life)」を充実させることのできる社会であると思います。弁護士としての私の使命は、こうした豊かな社会の実現のために、実践的に活動することにあると考えています。縁あって巡り合う人と事件に誠実に取り組み、一人でも多くの方が、前を向いていきいきと生きることができるよう、お手伝いできたらと思っています。

小川洋子さん同様、弱きもの声をあげられないものへの温かい眼差しがあるのだ。優しくて強い(そして美しい)目指すべき人。

先輩へのインタビュー記事も見つけた。答え一つ一つから先輩の人柄が感じられると思う。

<北千住法律事務所 橋澤加世先生>(弁護士列伝)

やっぱりこっちだ

内田樹さんも小川洋子さんも先輩も大好きなのは、お話の端々から心の温かさを感じるから。社会的なことや哲学的なことを考えるのはそれ自体とても刺激的で面白いのだけど、そうしたことを考え続けたい根底には、私が子どもの頃から抱いてきた「今もこれからも、世界中の子どもたちが安心して暮らせる社会にするにはどうしたらいいのだろう」という問題意識があり、実際の現実とどう向き合っていくべきなのか、そのヒントを探ってみたいと思うからなんだな、とブログを書きながら再認識したところです。